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三人目のレント:突然の告白

 校舎から正門へと向かう坂道を、セファと一緒に歩いていく。  セファの格好が気になってはいたが、それ以上に、向かいから歩いてくる女性の顔すべてにモザイクがかかっているのを見るに堪えられず、視線を地面に落として歩いた。  セファが俺の手を引いていく。セファは、何を思っているのだろう。  時折、俺を気遣う様にセファが俺の方を向いた。その都度、女性のように見えるセファの顔を見て安心している自分に気付き、それが俺を不安にさせた。  ふと見るとセファの顔にもモザイクが……そんなことにでもなったら、俺は訳の分からないことを叫びながら、どこかへ行ってしまうだろう。 ――まだ俺の心には正気が残っている。  作り笑いをセファに返した。 「よお、レント」  と、後ろから脳天気な声がかかる。振り向くと、宝田トウヤが坂道を早足で降りてきていた。ツーブロックの短髪にラフなTシャツとデニムのパンツ。片手でカバンを肩にかついでいる。 「お、おう」 「ほぉ、珍しいな、今日は女と一緒か。手ぇなんか繋いで、お前も隅に置けんな。秋水( あきみ)はどないしたんや」  ここにいるのがセファだ。  そう言おうとして俺は突如、既視感に、いや既聴感というべき何かに襲われた。  このトウヤの言葉、どこかで聞いたことがある。でも、どこだろう。 「何、ぼーっとしとんねん」 「あ、ああ、ごめん、ちょっと気分が悪くてな」 「なんや、そらあかんなぁ。彼女に介抱してもらえ」 「彼女じゃない、セファだ」  俺の横で黙って立っているセファを指し、俺はトウヤにそう言った。トウヤはセファをしげしげとみると、驚いた様子も無く、ただつまらなさそうに肩をすくめる。 「なんや秋水か。まあ、レントがこんな別嬪、連れてるわけないわなぁ」 「いや、お前、驚かないのかよ」 「何をや」  俺の質問に、トウヤはキョトンとした表情を見せた。 「いや、セファの格好だよ」 「なんでや」 「いや、だって」  なおも何かを言おうとした俺を、トウヤが片手をあげて押しとどめる。何か、合点がいったような顔をすると、二三度軽くうなづいた。 「お前、知らんかったんか」 「何を」 「そんなもん、秋水に聞け。ほな、ワシはいくで」  そう言うとトウヤは、いつものように手を挙げて、手のひらをひらひらと振りながら正門の方へと早足で歩いて行った。 「どういうことだよ、セファ」  振り返ってセファを見る。少しバツの悪そうな目で、俺を見つめていた。 「みんな知ってるんだよ」 「何を」  セファが言おうとしていることが予測できない。  ひとしきり、俺の目の奥を覗き込んだ後、セファはおもむろに、そう、おもむろにその事実を告げた。 「ボクの心が、女の子だってこと」  その言葉をイメージに変換することを、脳が拒んでいる。  もしそれを理解してしまったなら、俺とセファの関係が壊れてしまう。俺の無意識がそう叫び、イメージ化を邪魔しているのだ。 「ご、ごめん、意味が分からない」 「ボク、体の性別と心の性別が、一致してないんだ。そういうの、習ったよね。ボク、心は女の子なんだよ」  そんな俺を無視するかのように、セファはイメージ化を避けようもない言葉で、もう一度俺に『自分がなんであるか』を告げた。 「そんな話、なんでトウヤが……みんなが知ってるんだよ」 「前に、女の子に告白されたことがあって、その子に話したことがあるんだ。それで話が回ってるんだと思う」 「お、俺は、聞いて……」 「レントは、余り他の人と連絡もおしゃべりもしないし」 「言ってくれれば」  俺たち親友だろ。  そう言おうとして、その言葉を飲みこむ。 「それを言ってもレントは、それまで通りに接してくれたかな」  セファが、少しうつむきながら、俺を上目づかいに見つめていた。

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