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三人目のレント:キミだから

「と、当然だろ!」  俺は即座に答える。  しかし……それが『答えるためだけの答え』でしかないことは、俺自身がよく分かっていた。 『それを言ってもレントは、それまで通りに接してくれたかな』  セファは、自分を女の子だと思っているらしい。でも俺はそのことを知らずにずっと、セファと一緒にいたのだ。  一緒に……この三ヶ月、文字通り『一緒』だった。  ほぼ毎日傍にいた。セファの部屋に半分棲んでいるような状態だったし、泊まることも数えきれないほど。ベッドで一緒に寝るのも普通だった。  セファは、今までそれをどう思って…… 「レント、大丈夫?」 「な、何がだ?」 「体調」 「あ、ああ」  のことかと思ってしまった。多分、大丈夫じゃないだろう。  前を向くのは気持ちが悪い。道行く女性のモザイクが目に入るから。  横を見るのも怖い。セファの気持ちが分からないから。    自然、下を向く。  そんな俺の手を引っ張り、セファは再び正門への坂道を下り始めた。 「お、おい、どこ行くんだよ」 「どこって、部屋だよ。ボクたちの」  オレンジ色の四角いレンガ造りの図書館を左手に見ながら坂道の下まで来ると、セファは歩を緩めることなく右へ曲がり、正門を出る。  俺の手を引いていくセファの後姿。頭の少し高い位置から左右に垂れ下がる黒髪のツインテールが、歩みに合わせて左右に揺れていた。 「お前は、それでいいのか?」  しばらく歩いた後、閑静な住宅街に入ったところで、セファにそう声を掛ける。 「それでって?」  セファが立ち止まり振り返ったが、そのモザイクの無い顔を見ても、もう俺の心に安心が訪れることは無かった。  額の左で前髪が分かれていて、右目が少し隠れている。不思議そうに俺を見つめる、やや黄味がかった瞳。 「だって、俺は、男だぞ。部屋にいれるなんて」  そう、女の子が男を部屋にいれるなんて。  しかしセファは、ただ静かに微笑んだ。 「レントだから、いいよ」

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