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三人目のレント:真っ白い部屋の中で

 セファの部屋。必要な家具や道具しかない、真っ白い壁紙が囲う部屋。俺にとってここは、いつのまにか俺の、いや俺とセファ、二人の世界になっていた。  しかし今は…… 「座って。それとも、少し横になる?」  セファが台所に立ちながらも、少し心配そうに俺を見つめている。 「あ、ああ」  はっきりしない返事しか返せない。  セファの心は女性なんだという思いと、しかしモザイクがかかってないことが反対にセファが男性である証明のように思えて、ここにいてはいけないという焦燥と、このままセファに甘えたい気持ちが交錯する。 「騙そうとか、そんな風に思ってたわけじゃないんだ。ただ、レントとの関係が変わるんじゃないかと思うと、怖くて」  セファはそう言って、お茶を入れたグラスをそっとテーブルに置くと、突っ立ったままの俺をベッドに腰かけさせた。  そのまま俺の隣に座る。  肩が触れるような距離。外を歩いて汗をかいたというのに、セファの体から立ち上る匂いは、汗とは無縁のものに思えた。  どこかまだ熟れ切っていない果実のような、酸っぱさと甘さの境界にあるような、そんな匂い。 「なあ、セファ」 「なに?」 「俺、なんか、おかしくなったみたいなんだ」 「ごめんね、レント。ボクのせいで混乱してるんだよ」 「い、いや、そうじゃない」  セファのことは、混乱はするが理解はできる。性同一性の問題はジェンダー論の中でも語られることだからだ。  だから、だからそのことは一旦置いておこう。  しかしモザイクは理解しようがない。にもかかわらず、朝会ってからここまで、セファは『モザイク』について何も言わなかった。  セファにはあのモザイクが見えないのだろうか……やはり、俺だけがおかしくなっているのか? 「女性の顔が、モザイクがかかったように見えるんだ」 「モザイク?」  俺の言葉に、今度はセファが驚いたようだ。それはそうだろう。  セファは、俺の気が触れたとでも思っただろうか。 「あ、ああ。何を言ってるか分かんないかもしれないけど」 「ううん、分かるよ」  しかし俺の想像に反して、セファがゆっくりと首を左右に振る。それにつられてツインテールも振り子のように揺れた。 「分かる? なんでだよ」 「レントにも、見えてるんだね」  セファが上目遣いに俺を見る。その瞳に見つめられると、不思議とまた鼓動が速くなっていく……  だから、俺の問いかけの答えになっていないセファの言葉の意味を理解するのに、数秒かかってしまった。 「『も』?」  セファが一つ、(まばた)きをする。 「って、セファにも見えるのか?」 「うん」 「ほ、ほんとか? あれは何だ? セファは何であんなもん見ても平気なんだよ」  止まっていた思考が動き出すと、反対に口から出ていく疑問が止まらなくなる。 「な、なあ、一体どうなってるんだよ」  セファの肩を握り、まるで詰め寄るようにそう尋ねたが、そんな俺をなだめるかのように、セファが指を俺の余り手入れされていない髪に絡めた。

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