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三人目のレント:この世界は
「上書き」
セファの言葉が、ピンク色のリップを塗った唇から洩れる。
「上書き?」
「うん。現実 がね、真実 に上書きされていくたびに、世界に『綻び』ができていくんだ。ボクのせいで」
セファの指が、俺の髪の毛から離れ、頬に触れた。
「は?」
「でも大丈夫。まだ、壊れてないから」
「壊れる? なにが?」
「何がって、ボクが、だよ」
頬を離れた指が、俺の鼻先に触れる。そしてセファはうっすらと微笑みを浮かべた。
「何言ってんだよ……セファ……」
「レントは、この世界が全て『データ』でできてるって、知ってる?」
「データ?」
「うん。ボクの髪も、服も、そして、レントの髪も、この顔も」
セファの指が、鼻を離れ、俺の唇に添えられる。
「データって、ゲームじゃあるまいし」
「そうだね、ゲームじゃない。ヴァーチャルでもない。データで作られた、リアルだよ」
「お、おい」
セファが……壊れている。
「ボクもレントも、データそのものなんだ」
「これがデータって言うなら、俺たちは生身のない存在っていうのか? 俺たちは人間じゃないって?」
馬鹿げている。
そう、馬鹿げているはずなのに、俺の頭の中に、あのモザイク人間が浮かんできた。
「うん、そうだよ。ボクたちはまだ、『肉体』の基となるデータ、でしかないんだ。このデータを使って肉体を合成する。それを待っている状態なんだよ」
どこか物欲しげな、そんな表情を浮かべながら、セファが唇を自分の唾液で湿らせる。
「何言ってんだよ。どうしたんだよ、セファ」
理解不能なセファの言葉に、俺は苛立ちを隠せなくなり、セファの肩を両手でつかんだ。
ふと、セファが笑う。
セファは俺の手の力に全く抵抗しようとはしなかった。俺はセファと一緒にそのままベッドへと倒れ込む。まるで、俺がセファを押し倒したように。
大きめのTシャツがずれ、セファの白い肩がむき出しになる。それが眩しく見えたから、俺は我に返った。
「ご、ごめん」
離れようとする俺を、セファの、吸い込まれるような瞳が止める。
「いいよ」
「な、なにが」
「2回とも、ボクからだったから、うまくいかなかったんだと思う。レントからなら、うまくいくんじゃないかな」
何を……セファは何を言っているんだ?
「だからレント。ボクを、キミのものにしてよ」
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