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三人目のレント:そのキスの味
『ボクを、キミのものにして』
セファの唇からこぼれた言葉。しわが寄った白いシーツの上で、可愛らしい二重の目がじっと俺を見つめている。神秘的に光る、黄味がかったセファの瞳。
「な、何を、突然」
そんな無意味な言葉だけが口から出てくる。しかし、セファから体を離すことができない。
クーラーからの風が俺の身体を冷やそうとしているが、もう暑くないはずの体からは、止めようもない汗がにじみ出してくる。
こめかみから頬へと流れた雫を、セファの右手がそっと掬い取った。
「ボクのデータが削除されないように。ボクがまだ、この世界にいるうちに。レント、ボクをキミのものにしてよ。キミが、好きなんだ」
色々なことがあり過ぎて、自分が正常なのか異常なのか、分からなくなっている。
ただ、潤んだ瞳で俺を見つめるセファを見て、心の奥底で何かが蠢くのを感じた。
それは、今まで感じたことのない感情。
感情? 友情ではない。では、何だ?
セファの突然の告白が、俺の中で眠っていたものを揺り起こしたのか。それとも、自分がどんどんと『壊れて』いっているのか。
ない。ありえない。俺がセファを、『恋愛の対象』として見ているなんて。
セファは俺の親友であって……
しかしそんな思いとは裏腹に、まるで吸い寄せられるかのように、自分の顔がセファに近づいていく。
それを見たセファの目が大きく見開かれ、口元に笑みがこぼれた。そして瞳を閉じる。
セファは……セファは、俺とこうなることを喜んでいるのだ。
心の奥底から湧き上がってくる感情に抗うことが出来ない。
セファの体温が感じられるまでに唇を近づけると、少し震えながら吐き出される吐息が感じられる。
一瞬だけ躊躇った、次の瞬間、待ちきれなかったようにセファが少し顎をあげた。
二人の唇が触れ合う。僅かな振動を感じた後、艶めかしいまでの感触が俺の唇を割って口の中へと入ってきた。
俺の首に回される細い腕。どことなく甘い香りがする粘液が、俺の口の中へと注がれた。
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