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三人目のレント:再び、闇が降りる
理由は自分でも分からない。まるで熱病にでもかかったように、いや、このセファの体に救いを求めるように、俺はセファを犯そうとしていたのだ。
ハッとなって、身体をセファから引きはがした。
セファの瞳が色と光を失う。そして現れた、絶望の色……
「な、なんで」
セファのツインテールが、乱れたままの状態でベッドに広がっている。頭の上にあげていた両手を、セファは俺の方へと突き出した。
「やめないで、レント。お願いだ!」
貰ったプレゼントを突然取り上げられた子供のように……いや、差し伸べられた救いの手を振りほどかれたように、セファの瞳が慈悲を求めて泣き叫ぶ。
「抱いてよ。ボクを抱いてよ、レント!」
そんなセファの姿を、俺は見続けることが出来なかった。思わず、顔を背ける。
「ごめん。できない」
「なぜ? なぜ? なぜ? なぜ?」
なぜ? 自分でも分からない。
いや、そもそもセファを犯そうと思ったのは、なぜだ?
「なぜだよ、レント。ボクが……ボクの体が男だから? 服も、心も、女にしたのに、それでもダメだっていうのかい?」
「何言ってるんだよ、そうじゃなくて」
いや、そうじゃないのかどうかも、分からない。
俺はセファに……女性の姿をしたセファに、欲情したのか?
それともただ単に、モザイクのかかっていない姿に、救いを求めただけなんじゃ?
「そんな趣味は、ない?」
セファの、声のトーンが変わる。
「いや、趣味とか、趣味じゃないとかそういうことじゃ」
そう言ってセファに戻した視線の先には、一体どこから取り出したのだろうか、銀色のナイフが光っていた。
避ける間もない。そのナイフが、俺の喉に深く突き刺ささる。噴き出す血液が、セファの顔を、胸を、汚していった。
「何がダメなの? 何がダメだったの?」
何かを言おうとしたが、ゴボゴボという不気味な音しか出てこない。
「ねぇ、教えて、レント。教えてよ、ねぇ、レント……」
薄れゆく意識の中、セファの悲しげな声だけが、リフレインのように響いていた。
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