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四人目のレント:この世界は
セファの指が、ベッドに仰向けになっている俺から、デニムのズボンを脱がしていく。シャツはもうすでに、床の上に無造作に捨てられていた。
突然の羞恥心を感じ、顔が熱くなる。セファの目前に突き付けられる格好となった俺の、トランクス越しにもそれとわかるくらい硬くなってしまっているものを、思わず手で隠した。
セファの顔に、僅かな笑みが浮かぶ。細い手が俺の手を覆い、軽くつかんだ。
二人とも初めての経験……そのはずなのだが、セファは戸惑う様子も無く俺をリードしている。緊張とか、そういう仕草も見られない。でもどこか、その表情には物悲し気さが漂っている。
セファは、もしかしたら『経験』があるんじゃないかな……
そう思ってセファの顔を見つめていると、セファは俺が感じていることを察したのだろうか、「ずっと、こうしたいと思っていたから、こういう、予習も、ね」とつぶやいて、顔を少し赤らめた。
セファの手で、生まれたままの姿にされる。その足元で、セファは俺を見下ろしながら、Tシャツを脱ぎ始めた。
贅肉の一切ないお腹、少し浮き出たあばら骨に続き、薄い桜色の胸の先端が露になる。両腕を上げると、逆さになったVネックから、セファの顔が再び姿を現した。そして切りそろえた髪が、こぼれ出る。
俺の心臓が、トン、と音を立てた。
ゆっくりと、セファが俺に覆いかぶさってくる。セファの髪を撫でると、セファが潤んだ瞳で見つめ返してきた。
セファの胸に指を滑らせる。セファが俺の名を口にしながら、切なそうな表情を見せた。
この世界にもしかしたら、たった二人きりになってしまったのかもしれない。そんな異常な状況の中で、いや、そんな状況の中だからこそ、俺たちは互いの体を求め合った。
女性が相手のようにはいかない。それでもセファは俺と一つになることを強く求め、そして俺も、それを強く望んだ。
セファと体を入れ替える。
「来て」
両手を俺の方へと伸ばし、セファが俺を自分の中へと導いていく。
「これじゃ、入らないんじゃ」
「いいよ、そのまま」
「でも、濡れてないんじゃ、痛いだろ」
「いいから、そのまま、お願い」
半ば無理やり、俺のものがセファの中へとめり込んでいった。
二人が一つになる。しかしすぐに、セファが体を反らせ、苦悶の叫びを上げる。
「ご、ごめん」
そう言ってセファから自分のものを抜こうとした。
「やめないで!」
切羽詰まったとも、悲痛ともいえる叫び声。驚いた俺に、セファはゆっくりと首を振ながら、「お願い、もっと、もっと強く」と懇願した。
セファの目から涙がこぼれる。その涙は、俺が動く度に引き起こされる痛みによるものなのか、それとも、他の想いによるものなのか。
激しい痛みに耐えるように、セファの両手はシーツを強く握りしめている。
まるで……まるで、自らを罰しているような。
しかし激しく動くにつれ、セファの血が二人の間を滑らかにしていく。それにつれて痛みも和らいでいったのだろう。セファの口から洩れる声に、次第に艶っぽさが加わるようになっっていった。
お互いの名を呼び、抱きしめ、激しく動く。
「セファ、俺、もう」
そう言って腰を引こうとしたら、セファが俺の体を強く抱きしめた。
「中に」
セファの囁きが俺の耳を震わせる。その瞬間、俺の欲望の種が、セファの体内へと注ぎこまれた。そして二人、力尽き、果てる。
俺の息遣いとセファの息遣い。二人が放つ荒い呼吸が重なっていた。
深い満足感と、少しの背徳感。そして軽くはない罪の意識を抱えたまま、俺はセファの体に覆いかぶさり、息を整えた。
と、セファが、汗で濡れた俺の髪を右手で梳 いた。
「ごめんね」
再びの謝罪。
「何で謝るんだよ」
セファは、その問いかけには答えずに、俺の胸に顔をうずめる。しばらくそうやって抱き合った後、また愛し合った。
食べるのも忘れ、ただお互いの体を求め続ける。疲れたら眠り、目が覚めるとまた愛し合う。
二人の時間以外の全てが、止まっている世界。二人だけの世界。
すべてを忘れ、俺はただセファを愛することに身を捧げた。
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