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データたちの方舟:この世界は

『かつて人間は自らの手で、地球を人間が住めない環境に変えてしまった。地球が再び人間に適した環境に戻るまで、人間は自らを《データ化》して保管しようと考えたのだ。そのデータはセントラルデータベースに記録され、データ管理局の人工知能によって管理されている』 「ち、ちょっと待ってくれ。地球が、住めなくなってるって? じゃあ、人間は?」  聞こえてくる声がどれほど無機質なものであっても、スマートリンケージの向こう側にいる誰かと通話しているようにしか感じない。どこかに、まだ誰かがいるような。 『もう、とうの昔に滅びてしまっている』   その考えを嘲笑うかのように、声の主はそう言った。 「滅びてって……じゃあ何か? データだけが生き続けているってことか?」 『その通りだ』 「じゃあ、この俺は」 『秋水セファのデータ世界にコピーされた、橘レントのデータだ』  体を触ってみる。しっかりとした質量。  これもデータだというのだろうか。しかも、コピー? 『ただしコピーと言っても、お前はもう、セントラルデータベースにあるオリジナルのデータとはかけ離れた存在になってしまっている』 「かけ、離れた?」 『そうだ。お前のデータは、この世界に三度上書きされた。しかし、上書きが起こる度に、以前のデータの残骸が残ってしまい、その残骸が上書きしたデータを改変してしまった。その結果、もうオリジナルとはかけ離れた、似ても似つかぬデータになっている。橘レント、それが今のお前だ』  オリジナルのデータとは似ても似つかぬもの……  お前は偽者だ。そう言われた気がした。  なら、この俺の、今まさにこんな風に考えている《意思》は、なんなのだろう。これも数字と記号の羅列だというのか?  セファと愛し合った時間も、セファを愛しているこの気持ちも、偽物だというのか?  いや、そもそも、この世界の全てが《データ》だというのなら、この世界そのものが偽物じゃないか…… 「ここがセファの世界だというのなら、なぜ三回も《上書き》されたんだ?」 『なぜ? それはお前が三度』  そこで一旦、音声が止まる。 『秋水セファに殺されたからだ。それは本来の記録にはない出来事だ。だから修正されねばならない』  再び出された声からは、何の感情も感じられなかった。事務的な報告。しかし、その一瞬の沈黙が、ある種の戸惑いにも、俺に向けられた憐れみにも感じられた。

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