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データたちの方舟:世界の終わりへ
俺が……セファに? 殺された? しかも、三回も?
そんな記憶はない。この声の主の言葉を信じるなら、「そんなデータはない」ということになる。
『データは、上書きによって消えてしまっている。お前が覚えていないのも無理はない』
俺の知らない《現実》。セファがそんなこと、するはずがない。そう思いながら、あらためて部屋を見渡す。
ベッドの傍にナイフが落ちている。床からそれを拾い上げると、頭の中にふと、セファがナイフを握り締め、ベッドで眠る俺を見下ろしているイメージが浮かんだ。
『ごめんね』という言葉とともに。
「なぜセファは、俺を」
『自分で確かめればどうだ。このスマートリンケージには、その記録が残っている。ロックはかかっていない』
セファのスマートリンケージは今、俺の手の中にある。
どんな記録なのか……音声か、それとも画像か。手が、操作の為に一瞬動き、そして思いとどまった。
セファは、これを俺に見せようと置きっぱなしにしたのだろう。でもそれは、セファの遺言のようにも思える。
この中を見てしまえば、二度とセファに会えなくなる。そんな気がした。
「この世界はどうなる。元に戻るのか?」
『もう何をしても、元通りには戻らない。秋水セファのデータは壊れすぎたのだ。これ以上破損が大きくなると、セントラルデータベースのデータにも影響が出てくる。ゆえに、《プロセス》が開始された』
「プロセス……それはなんだ?」
セファのスマートリンケージには、『プロセス完了時刻』が表示されている。これのことだろう。
あと七時間ほどだ。
『秋水セファのデータをセントラルデータベースから削除する。そのプロセスだ』
さく、じょ?
「消すってことか」
『そうだ』
「消されたら、どうなる」
『データベースを再構築し、秋水セファが存在しないデータへと更新される』
セファが、いない、世界?
「ま、待て。そのプロセスとやらを止めろ!」
『停止は不可能だ』
「待て、待て、待て……どうしたらいい。何か方法はないのかよ、セファが消えない方法は!」
スマートリンケージに向け、俺は怒鳴った。怒鳴って、怒鳴って、怒鳴り散らした。
ない。ありえない。セファがいない世界だなんて。
『ないわけではない』
「あるのか。教えろ、教えてくれ!」
俺の怒鳴り声が、懇願へと変わる。
『ならば、秋水セファに会え。全ては、あれ次第だ』
その言葉が本当なのか、それとも嘘なのか。
俺はそれを確認することなく、セファのスマートリンケージを握りしめたまま、セファの部屋を飛び出した。
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