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第一章・3
屋敷から本社に出勤し、軽く仕事をこなした後に、父の待つホテルへ向かった。
星の付いた、高級ホテルだ。
父は、このホテルを使う時は決まったレストランの、決まった席に着く。
だから、貴士は容易にその姿を見つけることができた。
そして父は、彼が言うところの、会わせたい人物を連れていた。
「貴士。こちらは、九曜 悠希(くよう ゆうき)さんだ」
「九曜さんと言うと……」
貴士は、その姓に覚えがあった。
一週間ほど前に渡された、見合い写真。
その履歴に、九曜の名があった。
しかし……。
「写真の肖像と、少々違うようですが」
見合い写真に写っていたのは、すっとした面立ちの、理知的な青年だった。
年齢は、20代だった。
だが、今目の前にいるのは、目のくるくると円い人懐っこそうな少年だ。
年齢も、10代に見える。
「九曜さんの御都合で、お兄さんに変わり、弟の悠希くんがお見合いに見えたというわけだ」
「お父様。そんな無茶な」
兄の代わりに、弟がお見合い!?
それでも貴士は、次の瞬間にはすぐに平静を取り戻した。
(何が何でも、竜造寺家と縁故になりたい、というわけか)
父が席を勧め、この奇妙なお見合いは始まった。
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