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第一章・6
「では、お父様。悠希くんには、今夜から私の屋敷に住んでいただきます」
「そ、早急ではないか?」
「少しでも早く慣れたほうが、彼のためです」
立ち上がる貴士に、今度は悠希が慌てた。
「あの。まだ、お食事が」
「屋敷に来れば、もっと贅を尽くした料理が食べられる」
「でも。せっかくシェフが心を込めて準備してくれたお料理を、無駄にはしたくありません」
私に歯向かうとは、と貴士は驚いた。
今まで誰もが、私の機嫌を損ねまいと従ってきたというのに。
「……解った」
「ありがとうございます!」
ユニークな子だ。
そう、貴士は悠希を評した。
(しかし、それだけでは、私は陥落しないよ)
九曜貴金属は、確かに老舗の高級ブランドだ。
だが近年、その財政は苦しくなっていると聞く。
(お家を守りたい一心なのだろうが、果たしてついて来れるかな?)
貴士は、悠希に併せようなどと毛ほども考えていなかった。
私は、私。
これまでも、そしてこれからも変わらない。
後は父が何か喋っていたようだが、貴士は適当に相槌を打って聞き流していた。
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