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第一章・7

 父の話から得た情報は、少なかった。  なにせ彼は、悠希に対して趣味は、だの、好きな音楽は、だのとどうでもいいことばかりを訊くのだから。 『第二性はオメガです』  これだけ確認できれば、充分だった。  世継ぎが産めなくては困るので、まず間違いないだろうとは思っていたが。 「貴士は、アルファだよ。アルファとオメガで、運命のつがい、と言うわけか!」  自分が巧いことを言ったと勘違いして笑う父が、疎ましい。  運命のつがい。  そんな話は、言い伝えだ。  過去の、都市伝説だ。  貴士はワインを飲みながら、ただ悠希を観察していた。  その身なり。  食事の作法。  会話の仕方。 (残念ながら、及第点だ)  さすがは九曜家のお坊ちゃん。  しつけは、良くされている。 (後は、屋敷に行ってから、だな)  共に暮らすとなると、その化けの皮も剥がれるだろう。 (私に恐れをなして、逃げ出してもいいんだよ)  どうせまた、この縁談も流れる。  そう予想しながら、貴士はただワインを飲んでいた。

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