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第二章・2
「さて」
貴士は、悠希を見た。
彼は肩をすくめ、小さくなっている。
「電話は、私の父からだったが。大まかな内容の見当は、ついたね?」
「はい」
「親御さんにも黙って縁談を進めるとは、なかなかいい度胸だ。気に入ったよ」
その言葉に、悠希は首を跳ね上げた。
「え、あの。じゃあ」
「このまま屋敷に連れて行く。君は、そこに住むんだ」
「ありがとうございます!」
良かった!
悠希は、素直に喜んでいた。
実家が経営難に陥っていることは、まだ幼い頃から勘付いていた。
(僕は、何とか家の役に立ちたいんだ)
そんな折、兄にお見合いの話が舞い込んだ。
お相手は、大企業・竜造寺グループの御曹司だ。
(お兄様が駆け落ちなさったのには、驚いたけど)
これで何とか事業が続けられる、と喜ぶ両親の笑顔を、消したくは無かった。
だから悠希は、兄の代わりに竜造寺家に入ることを選んだのだ。
(もちろん、それだけの理由じゃないんだけど……)
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