10 / 90

第二章・3

 社交界で、氷の貴公子と呼ばれる、竜造寺 貴士。  少し、怖かった。  しかしこうして見ると、礼儀正しいスマートな人だ。 (僕のこと、気に入った、って言ってくれたし)  悠希はひとまず安心して、車のシートに深くもたれた。 (ホッとしたら、何だか……、眠く……)  そのまま寝入ってしまった悠希に、貴士は驚いていた。 「私を前に居眠りするとは。本当に、良い度胸だ」  ふと、口元が緩んだ。  笑った、のか?  私は、彼を見て笑ったのか? 「笑うのは、久しぶりだ」  嘲りでも皮肉でもない、笑み。  固い蕾がほころんだような、そんな笑みを貴士は久しぶりに浮かべていた。  やがて二人を乗せた自動車は、貴士宅の敷地内に入った。  両親とは別に居を構え、独りで住んでいる。  使用人はいるが、血縁者とは距離を置いていた。 「悠希、起きなさい」 「はい……、あ!」  僕、眠っちゃってたんだ! 「し、失礼しました!」 「いや、別に構わない」  ボディガードの守る中、二人は車を降りた。

ともだちにシェアしよう!