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第二章・8
ドアの中に促された悠希は、息を飲んだ。
そこにあるのは大きなベッドではなく、幻想的に揺らめく水槽だったのだ。
「これは……」
「癒しの空間の一つだ」
大きな水槽の中には、色とりどりの熱帯魚。
玄人好みの淡水魚。
優雅に漂う、クラゲの水槽もあった。
「気に入ったか?」
「すごく、素敵です」
泳ぐ魚たちを見ていると、悠希の心は落ち着きを取り戻していった。
貴士の方はと言うと、自分の取った行動に戸惑っていた。
(泣いても構わない、くらいの気持ちでいたはずなのに)
資産目当ての政略結婚を望むのなら、それなりの仕打ちを与えるはずでいたのに。
だが悠希には、無理強いできない何かがあった。
(夢の中の少年に、似ているからか?)
いや、違う。
何か思い出せそうな気がするのだ。
(私とこの子は、以前どこかで会ったような気がする)
無邪気に水槽を眺める悠希を、貴士は見ていた。
そのまなざしは、優しいものだった。
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