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第三章 二人の過去

 そろそろ寝ようか、と言う貴士の言葉に、悠希は途端に緊張した。  しかし、貴士の顔には笑みがあった。 「今夜は、もう休みなさい。疲れただろう」 「え、でも……」 「君を抱くのは、後にする」  ホッとした表情の悠希に、貴士は軽いデジャヴュを感じた。 「君と私は、過去に会ったことがあるかな?」 「……はい」  やはり、と貴士はうなずいた。  そうでなければ、夢に彼が出てきたりはしないだろう。 「いつ? どこでだろう?」 「それは。できれば、お話ししないほうが」  貴士さんの名誉にかかわりますから、と悠希は答えない。  その晩は別れたが、貴士の胸には小さな疑問が残された。 「私の名誉にかかわること? 一体なんだ?」  過去に何か彼の前で、粗相をしたか?  考えながら眠ったので、悠希が登場する夢を見た。

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