19 / 90

第三章・4

 数年前の夜会、貴士は激務の後で出席した。  疲れた体に酷だったので、すぐに切り上げようとしてはいた。  しかし、彼の隣に掛けた男が、しきりに酒を勧めてくる。  男は大切な取引相手。  無下にもできずに、勧められるままアルコールを口にしていた。  そして。 「失礼。少し、風に当たって来ます」  酔いを自覚した貴士はバルコニーへ出たが、夜風は彼からどんどん体温を奪ってゆく。 「いかん。悪酔いしたようだ」  椅子に掛け、冷や汗に耐えていると、誰かが近づいてくる。  それは、まだ10代の少年だった。 「あの。大丈夫ですか? お体の具合が、よろしくないのでは?」 「平気だ。少し休めば、良くなるよ」  ほとんど彼の顔も見ないまま、貴士は手を振った。  正直、誰かと話す余裕もなかったのだ。  少年は立ち去ったが、すぐにまた戻って来た。 「お水を、お持ちしました。いかがですか?」 「水? いただこう」  そこで初めて、貴士は少年の顔を見た。  心配そうにグラスを差し出す、白い肌の美しい少年。  彼が、悠希だったのだ。

ともだちにシェアしよう!