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第三章・5
「思い出した。あの時、水をくれた少年。それが、君だったんだ」
「そうです」
すみません、と悠希は頭を下げた。
「貴士さんの、不名誉を暴くような真似を」
「いや、責められるのは私の方だな」
あの一杯の清水で、助かった。
何とか車まで歩く力が湧いて、屋敷に戻ることができたのだ。
「恩人を、今の今まで忘れていたとは」
「恩人だなんて。そんな」
そして貴士は、恩を売るような真似をしない悠希に好意を抱いた。
「話は解った。君は、もう自由だ」
「えっ?」
「九曜貴金属さんには、充分な融資をお約束しよう。無理に君が、私に嫁ぐ必要はない」
そんな。
そんなこと、って。
「……貴士さんは、僕がお嫌いですか?」
「何を言う。嫌うどころか、好意を持っているよ」
「だったら、お傍に置いてくださいませんか」
この展開には、貴士の方が驚いた。
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