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第三章・6
「君はてっきり、竜造寺家の資産が目的で私に近づいた、と思っていたが」
「恥ずかしいお話ですが、それも事実です。でも」
「でも?」
「あの晩から、私は貴士さんのことが忘れられなかったのです」
宵闇のバルコニーで出会った、年上の青年。
体調が悪いにもかかわらず、その振る舞いは終始紳士的で品があった。
その運命の晩、悠希は恋に落ちてしまったのだ。
貴士は悠希の話を、冷静に聞いていた。
(こういう子には、これまでも何度か出会ったことがある)
まだ学生の頃から、貴士は人を惹き付けた。
皆、憧れの眼差しを向けて来たものだ。
「一目惚れしました」
「運命だと思います」
「付き合ってください」
もちろん、気に入った子とは交際もしたし、深い仲にもなった。
だが、それで終わり。
貴士の心の奥底まで深く忍び込む人間は、いなかった。
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