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第四章・手作りのお弁当
貴士の婚約者として屋敷に来た悠希だったが、さほど内部の人間は注目してはいなかった。
これまでも、数回そんなことがあったのだ。
婚約者として、勇んで屋敷に潜り込んだはいいものの、貴士のあまりの冷たさに音を上げる。
そして、尻尾を撒いて実家へ逃げ帰るのだ。
「今度の婚約者様、何てお名前だっけ?」
「悠希さま。九曜 悠希さまだよ」
「何日、持つと思う?」
「まだお若いから、2週間程度かな」
そんな陰口を、叩かれていた。
しかし、悠希は張り切っていた。
「貴士さんの喜ぶ顔が、見たいんだ!」
それだけを胸に、いろいろと考えていた。
そして、朝早くに厨房へと現れた。
「おはようございます」
「悠希さま?」
「あの。貴士さんのお弁当を作りたいんですけど」
何と。
「お弁当、でございますか」
貴士の昼食は、高級料亭の仕出しと決まっている。
それか、本社近くのミシュランレストランだ。
厨房のシェフたちは、困ってしまった。
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