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第四章・5
お帰りなさいませ。
屋敷のポーチに並んで、帰宅した貴士を待つ人間の中に、悠希の姿もあった。
そんな彼は、少し不安げな顔をしている。
(貴士さん、お弁当食べてくれたかな。美味しいって、思ってくれたかな)
「悠希」
「は、はい」
貴士は、黙って弁当箱を悠希に渡した。
軽い。
(と、いうことは!)
ぱあっと顔を晴らした悠希に、貴士は穏やかな声を掛けた。
「美味しかったぞ。完食した」
「ありがとうございます!」
「今度作る時は、事前に教えてくれ。人と会食して、食べられないこともあるからな」
「はい!」
あの貴士さまが、微笑んでおられる!
手作りのお弁当を、喜んでいらっしゃる!
周囲の使用人たちは、みな驚いた。
この少年は。
悠希さまは。
凍てついた貴士さまの心の氷を、溶かしてしまわれるかもしれない!
そんな期待に、胸を膨らませた。
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