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第四章・6
夜、悠希は再びパジャマにガウンの姿で貴士の部屋を訪ねた。
「お呼びでしょうか」
「うん。少し、話がしたい」
ソファでくつろぐ貴士は、洋酒のグラスを傾けていた。
「お休みになる前のお酒は、あまり体に良くないと聞きます」
「そうだな。だが、今夜は酔いたい気分なんだ」
またこの口が、勝手な言葉を紡ぎ出す。
好きで飲んでいるんだ。
放っておいてくれないか。
そう言う前に、優しい言葉がこぼれ出す。
貴士は、少しだけ酔ったまなざしを悠希に向けた。
「日中は、何をしていた?」
「お屋敷の、お庭を見せてもらいました。春の香りが、ほのかにしました」
「18歳と言ったが、進学は? 大学には行かないのか」
「僕は、貴士さんとの結婚を望んでいますので。今は、それが第一の目標なんです」
何とも切ないことを言う。
貴士は、グラスを干した。
「私はパートナーに、高い教養を求めるが」
「結婚が確定したら、進学したいと思います」
悠希は、意外に頑固だ。
そんな一面も、貴士は好意的に感じた。
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