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第四章・7
「しかし。結婚となると、一つ問題があるぞ」
「何でしょう」
「私には容易だが、君には厄介なことだ」
悠希はその言葉に、身を乗り出した。
「僕、貴士さんのパートナーになれるのなら、何でもします!」
「よく言った」
乗り出した悠希の頭を支え、貴士はそっと引き寄せた。
「できるか? キス」
「え……!?」
そうだった。
結婚するなら、僕はこの体を貴士さんに任せなきゃならないんだ。
固まってしまった悠希に、貴士は顔を近づけた。
「できないなら、私から行くが」
「あ、あの。それは、その。あ……」
貴士は、昼に食べた卵焼きを思い出しながら、悠希にキスをした。
甘くて、柔らかで。
優しい味の、キスをした。
唇を重ねるだけの、可愛らしいキスだ。
だが、貴士はそれだけで充分昂った。
雪の精のような、清らかな少年。
悠希。
君が、欲しい。
「今夜は、ここに泊りなさい」
それが、どういう意味を持つものか、解らない悠希ではなかった。
ただ、貴士のキスは素敵だった。
かすかに残った洋酒の香りに、酔った。
(貴士さんになら……、僕……)
ソファから立ち上がった貴士に寄り添い、悠希は立った。
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