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第六章 春の装い

「う……」  悠希は、重い瞼を開けた。  重いのは、瞼だけではない。  全身が、気怠かった。  遮光カーテンで日の光が閉ざされた室内は、暗い。  だが、薄くもれる明るさで、今はもう朝だということが解った。 「貴士さん」  顔が、火照る。  昨夜、彼に愛してもらった。  初めての行為は、まだ鮮やかな記憶だ。 「恥ずかしい……」  しかし、その愛しい相手の貴士の姿は、隣になかった。  ゆっくり上半身を起こし、ベッドサイドに目をやると、書置きがあった。 『目が覚めたら、人を呼びなさい』  そして、その脇にはスマホサイズの端末があった。  いろいろなアプリが表示してあるが、その中央にベルの形をしたものがある。 「これかな?」  悠希がそれをタップすると、すぐに寝室へ使用人が現れた。

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