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第六章・2
「おはようございます、悠希さま。お目覚めになられましたか」
初老の、品のいい紳士が、うやうやしく頭を下げた、
「おはようございます。あの、貴士さんは?」
「貴士さまは、早くにお出かけです」
「今日は祝日なのに、ですか」
「社交界の皆さまから、ゴルフのお誘いがお約束されておいででしたので」
そうですか、と悠希は少しうなだれた。
正直、今朝は傍にいて欲しかった。
初めてを捧げた愛する人に、おはようを言いたかった。
「いかがなさいますか、悠希さま」
「まず、シャワーを浴びたいと思います」
「では、そのように準備いたします」
使用人は、優雅な足取りで窓辺に歩いた。
「カーテンは、開けてもよろしゅうございますか」
「お願いします」
彼が小さなスイッチに触れると 遮光カーテンが自動で音もなく開いた。
まだ浅い春の光が、部屋いっぱいに差し込む。
「あの。今、何時でしょう」
「8時を回ったところでございます」
「そんなに。ああ、僕すっかり寝坊しちゃったんだ」
「お疲れでしょうから、致し方のないことかと」
そして使用人は、寝室を去った。
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