44 / 90

第六章・6

「早く貴士さん、帰ってこないかな」  そして、カッコよくなった僕を見て欲しい。  驚いた後、微笑んで欲しい。 「ああ、こんな気持ち初めて」  愛する人のために綺麗になるって、こんなにドキドキすることだったんだ。  だが、貴士の帰宅予定時刻までは、まだ長い。  悠希はその間、庭園を散策することにした。  先だっても歩いたが、広すぎてまだ全ては見ていないのだ。  まだ冷たい春風の中に、悠希は飛び出した。 「すごい。春の花が、もうこんなにたくさん」  花壇には、規則正しく春を彩る園芸植物が咲いていた。  チューリップに、パンジー。  アネモネに、菜の花に、ムスカリ。  終わった花を摘んでいる庭師と話をしてみると、ここで育ったものではないと言う。 「花き農家で育てた苗を、移植しているんです」 「そうだったんですか」  ただ、この屋敷を彩るために。  そして、花が終われば破棄されるのだろう。 「何だか、可哀想だな」 「薬草園なら、お屋敷で育てているものが見られますよ」 「行ってみます」  庭師にお礼を言い、悠希は東へ歩いた。

ともだちにシェアしよう!