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第六章・7
薬草園もまた、春を迎えていた。
ジンチョウゲが香り、ハコベが小さな星々のように咲く。
目にも鮮やかな、レンギョウ。
そして、スミレの花もあった。
「このスミレ、一株もらってもいいかな」
控えめに、うつむいて咲くスミレの花。
だがその花姿は、悠希の心をひどく掴んだ。
先ほどの庭師のところまで戻り訳を話すと、喜んで植木鉢に移植してくれた。
悠希はそれを大切に抱いて、屋敷に入った。
「一足早い春を、貴士さんにも見せてあげたい」
でも、こんな小さな野の花を、彼は喜んでくれるだろうか。
華やかなバラやユリの方が、彼にはふさわしいのではないか。
そんな不安もあったが、悠希は思った。
「きっと貴士さんなら、このスミレに美を感じてくれるはず」
豪華な花しか受け付けないような、そんな薄い人間ではないはず。
検索してみると、スミレの花ことばは『謙虚』『誠実』。
「僕は謙虚に、誠実に貴士さんを愛します」
そう言って、この花を渡そうかな?
時計を見ると、貴士の戻る時刻は間もない。
悠希は、幸せな心地で彼の帰りを待った。
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