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第七章・2

 貴士の部屋には、お茶の支度が整っていた。  高価な茶器に、特級の茶葉。  そして、貴士がソファに掛けて待っていた。 「どうした。早く君も掛けたまえ」 「あの、他の方は?」  貴士のことなので、バリスタや使用人がいる、と思っていた悠希。  だが、そこには貴士一人しかいなかった。 「君の腕前を、試したくなってね」 「腕前、ですか」  そう、と貴士は指を組んだ。 「あれだけ凝った弁当を作るくらいだ。紅茶を淹れることなど、造作もないだろう」  絹のスカーフに包んだ植木鉢をテーブルに置き、悠希はうなずいた。 「僕でよければ、喜んで」 「期待してるよ」  悠希は、てきぱきと動き始めた。  簡易キッチンで湯を沸かし、まず茶器を温める。  茶葉の種類を見極めて、湯の温度と抽出時間を決める。  茶葉の量も、きちんと量った。  やがて芳しい紅茶の香りが部屋中に漂い、貴士は満足げに微笑んだ。 「さすが九曜家の子息。一分の隙も無い」 「他に、取柄も無いんです」  謙遜した悠希だったが、彼の淹れた紅茶を一口飲むと貴士は瞼を閉じた。 (完璧だ)  まろやかで、とろけるような味わい。  その中に潜む、きりっとしたコク。  茶葉の持つ旨味を、最大限に引き出している悠希の腕前は、本物だった。

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