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第七章・3
「意地悪を言ってすまなかった。これは、本当に美味しい」
「ありがとうございます」
良かった、と息をつく悠希に、貴士は問いかけた。
「本題に入ろう。私に見せたいもの、とは?」
「はい。貴士さんのお留守に庭を散策して、春を見つけましたので」
悠希はスカーフを解いて、植木鉢を貴士に差し出した。
「スミレの花です。薬草園に咲いていました」
アイボリーホワイトの陶器でできた植木鉢に、深い紫の小さな花が揺れている。
「これは、何とも可憐な花だ」
貴士は植木鉢を持つと、目を細めてスミレを眺めた。
「こんな小さな野の花に春を見出すとは。悠希は、繊細な心の持ち主だな」
「気に入ってくださいましたか?」
「ああ、とても良い。心が晴れたよ」
実は、今日のゴルフには少々嫌気がさしてね。
そう言うと、貴士はティーカップに口をつけた。
「嫌気? 優勝なさったのに、ですか?」
「メンバーの中に、気に障る男がいた。コースを回る間中、私を誉めそやすんだ」
「褒められれば、嬉しくなりませんか」
それには貴士は、眉根を寄せた。
「あまり度の過ぎたお世辞は、かえって不快だ」
そうか、と悠希はうなずいた。
(貴士さん、人付き合いで疲れてらっしゃるんだな)
そう思い、胸を痛めた。
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