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第七章・6

(貴士さん……)  自然に瞼を閉じ、悠希はその素敵な呪文を味わった。  そっと歯をつついてくる貴士の舌に、唇を薄く開けた。  柔らかなものが、悠希の咥内に忍んで来る。 「……っ、ふ。ん、んぅ……」  餓えて貪ることはなく、貴士の舌はただ優雅に悠希の中を踊った。  やがて、彼が去って行く。  キスを終えてもまだ、悠希は瞼を閉じたまま余韻に痺れていた。 「呪文は、成功したか?」 「……はい」  何て、素敵なキス。  優しくて、甘くて、優美で。 (昨夜のキスは情熱的だったけど、今のキスも好き)  そんな悠希の心を見透かしたように、貴士は微笑みかけて来た。 「もっと熱いキスは、夜にしようか」 (ま、また御誘い受けちゃった!) 「返事は? 嫌なら無理にとは言わないが」 「え、いえ。あの、……いいんですか?」 「もちろんだ」 「じゃあ……、今夜お部屋にうかがいます」 「楽しみに待っているよ」  後は澄まして、紅茶など飲んでいる貴士だ。  悠希はと言えば、頬を染めてうつむいていた。 (どうしよう。まだ少し怖いけど……)  でも、心の隅で期待している自分がここにいる。 (僕、エッチな子になっちゃった)  赤くなった悠希を見て、やはり貴士は微笑んでいた。

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