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第九章・2

「先だって手短にお話しした通り、わたくしはこちらの悠希くんに助けてもらったことがあるのです」  その恩返しということで、今回の融資を決めた。  いくら貴士がそう説明しても、丈明は首を縦に振らなかった。  明治時代創業の、信頼あるブランド・九曜貴金属。  その看板目当てに、この男は美味い話を持ってきたに違いない。  ゆくゆくは、会社ごと乗っ取ってしまう腹に違いない。  そう、疑っていた。  いくら話しても平行線の貴士と父・丈明に、悠希はつい口をはさんだ。 「お父様。貴士さんを、信じてください。貴士さんは、信用のおける方です」 「悠希。お前は、まだ子どもだ。ビジネスの世界は、厳しいんだよ」  そして、それを機に立ち上がった。 「帰るぞ、来なさい」 「お父様!」  腕を掴まれ、悠希は声を上げた。  貴士は、その肩を支えた。 「九曜さん。悠希くんは、わたくしの婚約者です」 「やめてください。私の息子を、今まで拉致しておきながら」  二人のやり取りに、悠希は悲しくなってきた。

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