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第九章・4
曇った貴士の表情を見て、丈明は言った。
「お気に障ったのなら、謝ります。しかし、ご自分がこれまでなさって来たことを振り返り、お考え下さい」
「確かに、時には冷酷に判断したこともありました。しかし……」
「何よりあなたは、私の大切な息子を勝手に婚約者と称して囲ってしまわれた」
「囲う、などと。悠希くんは、本当にわたくしの大切な……」
丈明は、今度も貴士に全てを語らせなかった。
過去、貴士が『婚約者』たちに何をしてきたか。
どんな仕打ちを与えて来たかを、絞り出すような声で吐いた。
「おそらく、悠希もすでに傷物にされているのでしょう。全く、身勝手な方だ」
「お父様、ひどい」
傷物、だなんて。
悠希は、貴士と愛しあった夜を思った。
優しく触れてくれた貴士を、想った。
僕は、自ら進んで貴士さんの腕に抱かれたのに!
「悠希は、ちゃんとした人に嫁がせます。氷の貴公子の贄になど、しませんから」
話はそこまでで、悠希は丈明に腕を掴まれ引きずられるように連れていかれた。
もがいていた悠希だったが、体格のいい父には敵わず、連れられていった。
貴士は、あまりにも想定外の展開と結果に、呆然と立ちつくしていた。
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