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第九章・8

 貴士はカーテンを開けて、夜空を見上げた。  薄い雲の切れ目からのぞく、星々を眺めた。  せめて、この星を。  同じ星を、悠希が観てくれていればいいが。  そこに、寝室のドアをノックする音がした。 「誰だ」 「夜分、恐れ入ります。辻でございます」  入るように促すと、彼は子機を手にしていた。 「悠希さまより、お電話でございます」 「何っ?」  震える手で電話を取ると、耳にあの声がした。  優しい声は、優しい言葉をいくつもいくつでも紡いでいった。 『父が、大変失礼しました』 『お食事は、ちゃんと摂られましたか?』 『また、お酒を飲んではいませんか?』 『僕、貴士さんが眠れていらっしゃるか、心配で』  相変わらずの、心配性だ。

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