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第十章・2

「どうすればいいんだ」  悠希の父、丈明は困っていた。  せっかく竜造寺家から救い出した息子・悠希。  だのに彼は、すっかり元気を失ってしまっているのだ。  今も、窓越しに小鳥の姿を見ては、目に涙をにじませている。 「悠希。せめて、学校へ行ってみなさい」  丈明は、そう声を掛けてみた。  悠希が受験した大学からは、全て合格通知が届いている。  その中から、第一志望の学校の入学手続きは、済ませてあるのだ。  だが悠希は、ただ黙って首を横に振る。  表情を失った、青白い顔をして。 「明るく、積極的な子だったというのに」  そう溜息をつく丈明に、悠希の母・希衣(きえ)はそっと話した。 「悠希は、本当に竜造寺さんのことを愛しているんじゃないのかしら?」 「いや、それは違う。悠希は、だまされているんだ」 「じゃあ、どうしてあんなに塞ぎ込んでいるんです? あなたが無理に引きはがしたりしたから……」 「もしそうだとしても、一時の気の迷いだ。すぐに、元の悠希に戻るさ」  そこへ、玄関のベルが鳴った。

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