69 / 90
第十章・2
「どうすればいいんだ」
悠希の父、丈明は困っていた。
せっかく竜造寺家から救い出した息子・悠希。
だのに彼は、すっかり元気を失ってしまっているのだ。
今も、窓越しに小鳥の姿を見ては、目に涙をにじませている。
「悠希。せめて、学校へ行ってみなさい」
丈明は、そう声を掛けてみた。
悠希が受験した大学からは、全て合格通知が届いている。
その中から、第一志望の学校の入学手続きは、済ませてあるのだ。
だが悠希は、ただ黙って首を横に振る。
表情を失った、青白い顔をして。
「明るく、積極的な子だったというのに」
そう溜息をつく丈明に、悠希の母・希衣(きえ)はそっと話した。
「悠希は、本当に竜造寺さんのことを愛しているんじゃないのかしら?」
「いや、それは違う。悠希は、だまされているんだ」
「じゃあ、どうしてあんなに塞ぎ込んでいるんです? あなたが無理に引きはがしたりしたから……」
「もしそうだとしても、一時の気の迷いだ。すぐに、元の悠希に戻るさ」
そこへ、玄関のベルが鳴った。
ともだちにシェアしよう!