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第十章・4
やがて紅茶のよい香りが漂い、貴士の前にティーカップが静かに出された。
「どうぞ」
「ありがとう、悠希」
二人の間には、温かな空気が通い合っている。
(認めたくないが。本当に愛し合っているのか、この二人は)
揺れる気持ちを抑えて、丈明は難しい声を出した。
「それで、今日はどういった御用件で?」
「まずは、お詫びをと思いまして」
お詫び。
生まれてこのかた、人に詫びたことのない氷の貴公子が、お詫び!?
「悠希くんをわたくしの一存で婚約者に決め、屋敷に連れ帰ったことを、心よりお詫び申し上げます」
そして貴士は、持参した大きな包みを丈明に差し出した。
「このようなものでお許し願えるとは思いませんが。せめてもの償いの気持ちです」
絹の風呂敷に包まれたそれは、銘の入った木箱。
そして中からは、彩り美しい磁器の大皿が出て来た。
「あ! これはお屋敷の回廊に飾ってあった、有田!」
「竜造寺家の、家宝の一つです」
値のつけようのない、博物館行きのような逸品だ。
希衣も丈明も、息を飲んだ。
「このような、大切なものを。謹んで、頂戴いたします」
「も、物で解決しようなど」
乱暴な丈明の言葉は希衣にたしなめられ、大皿は九曜家のものとなった。
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