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第十章・6

 夜、貴士は寝室で悠希と電話で話していた。  スマホの番号も、アドレスも交換した。  もう、貴士は寂しくはないのだ。 「いや、それでも。今、この場に君がいないのは、実に寂しい」 『僕もです』 「今日は、突然訪ねてすまなかったな」 『いいえ。とても嬉しかったです』 「ご両親は、何と?」 『おかげさまで、貴士さんに好感を持ってくれました』 「有田が効いたかな?」 『貴士さんの、誠意のある言葉が効いたんです』  貴士は、微笑んだ。  おそらく今後の人生で、もうあれほど腰を落として頭を下げることなどあるまい。 「明日は、大学に行ってみるといい」 『はい。4月から、頑張って勉強します』 「何を学ぶんだ?」 『ジュエリーデザインを、極めます』 「それは素敵だ。九曜貴金属さんも、私の会社も、一挙両得だな」  そして二人が結婚すれば、両社とも安泰。  明るい未来が、手の届くところまで来ていた。

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