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第十一章 二つの幸せ

 貴士は悠希の両親から、彼との婚約を許してもらい、有頂天になっていた。 「結婚式には、海外からも名士を呼ぼう。三日三晩の宴を開いて、贅を尽くそう!」  しかし、そんな貴士の前に掛けて紅茶を口にする悠希は、少し浮かない顔だ。 「どうした、悠希。嬉しくないのか?」 「あ、いえ。嬉しいです。ただ……」 「ただ?」 「僕だけ、こんなに幸せでいいのかな、って思って」  首を傾げる貴士に、悠希は駆け落ちした兄・日明(あきら)の名を口にした。  元は、貴士とお見合いをするはずだった、日明。  しかし、彼にはすでに愛し合う人がいた。  そして、駆け落ちしてしまったのだ。 「今ここに居ない兄上の心配をするとは、やはり悠希は優しいな」  正直、日明は貴士にとってはどうでもいい存在だった。  自分を蹴って、他の男の元へ走った人間。  プライドを傷つけられた貴士は、日明に良い印象を持っていなかった。 「大丈夫だろう、独りではないのだから。どこかで幸せに暮らしているさ」 「そうでしょうか」  悠希は、その小さな胸を痛めていた。  悠希の両親が、まだ日明を許してはいないのだ。  大事なお見合いをすっぽかし、駆け落ちするなど非常識すぎる。  もし、のこのこ目の前に現れても、家の敷居はまたがせない。  そんな風に、怒りをあらわにしているのだ。

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