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第十一章・2

「貴士さんのおかげで、僕は両親に祝福されて婚約することができました」  だけど。 「だけど、お兄様は。誰からも祝ってもらうことなく、身を隠して生きているんです」  そんな悠希は、少し鼻声だ。  兄を思い、泣いているのだ。  貴士は悠希の隣に掛けて、その肩を抱いた。 「優しい。悠希は、本当に優しいな」 (私を愚弄した兄など、出てきてほしくはないのだが) 「それほど言うのなら、兄上を探そうじゃないか。そして、悠希の御両親も説得しよう」 「貴士さん! ありがとうございます!」 「竜造寺家は、諜報機関も持っている。すぐに、見つかるよ」 「僕、お茶のお代わりを淹れますね!」  悠希は笑顔で、うきうきとティーポットを手にした。  何とも、解りやすいことだ。  悠希が紅茶を淹れる間に、貴士は部下に彼の兄を捜索するよう命じた。  ビジネス界、社交界、海外。  あまたの情報を収集する、優秀な諜報員たちだ。 「彼らに任せておけば、大丈夫だろう」  悠希が淹れてくれた紅茶を飲みながら、貴士は連絡を待つことにした。

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