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第十一章・3

 結果が出るのは、早かった。  翌日には、日明の居所は、貴士の口から悠希の耳に入れられた。  彼は、古びた安アパートの一室を借り、恋人の安村 幸次(やすむら こうじ)と共に潜伏していたのだ。 「お兄様、どうしてそんな質素な暮らしを」 「見つかったら引き戻されて、私と結婚させられる、と思い込んでいるのだろう」 「僕、お兄様に会いに行ってもいいでしょうか」 「そうだな。御両親に会う前に、悠希と話した方がいいだろう」  そして、貴士も面談を申し出た。 「私は現在、悠希の婚約者であり、兄上に関わることは決して無い、と証明しなくては」 「そうしてくださいますか」  何度コールしても、決して繋がることのなかった、日明の電話。  悠希は辛抱強く、何度でも繰り返した。  スマホを持つ手が汗で湿ってしまう頃、ようやく通話が繋がった。

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