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第十一章・4
『もしもし。……悠希? 何か、あった?』
「お兄様! ご無事で良かった!」
『お父様かお母様が、健康を害された、とか?』
「いいえ。ただ、お兄様が幸せに暮らせるよう、提案したいと思って」
幸せに暮らせるよう、提案。
その言葉に、日明は瞼を閉じた。
愛する人と一緒なら、どんな暮らしでも幸せだと思っていた。
しかし、貴士の報復を案ずるあまり、極端に怯えて縮こまった生活には、そろそろ限界が来ていたのだ。
「お電話で話すには、長くなります。近々、お会いできませんか?」
『明後日の18時以降なら、出られるけれど』
「それで結構です。場所は?」
日明はアパートの最寄り駅にあるカフェの名を告げ、通話を切った。
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