78 / 90

第十一章・5

「貴士さん。お兄様とお会いできることになりました!」 「良かったな、悠希」  そこで、と貴士は悠希の手を取った。 「では、その場に私も同席して構わないだろうか」 「貴士さんも?」  悠希は、危惧した。  貴士を病的にまで恐れている、兄だ。 (本人を急に目の前にしたら、倒れちゃうかも……)  不安げな悠希に、貴士は微笑んだ。 「大丈夫。意地悪を言ったりするためじゃない。ただ、私には君という愛する人がいることを、納得してもらうためだ」  貴士の笑みは、優しかった。 「もう『氷の貴公子』はこの世にいないと、知ってもらうためだよ」 「ありがとうございます、貴士さん」  確かに、氷のような心の人間は、こんな風に温かく笑えやしない。  悠希は安心して、明後日を待つことにした。

ともだちにシェアしよう!