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第十一章・6

 悠希の話を、日明はすぐには信じてくれなかった。 「僕が貴士さんと婚約をしました。お兄様は、もう自由なんです」 「でも、あの方のことだから。不義理をした僕に復讐しようと狙っているかも」 「貴士さんは、そんな人ではありません」 「……」  なかなか進展しない二人の会話に、一人の男が現れ割って入った。 「悠希くんの言うことは、本当です」 「竜造寺さん!?」  初めから悠希と二人では、日明は委縮してしまう。  そう考えた貴士は、後から話に参加することにしていたのだ。  悠希の隣に掛けた貴士は、日明に真摯に向き合った。 「確かに、以前の私なら。氷の貴公子などと呼ばれていた頃ならば、報復をしたかもしれない」  しかし。 「しかし、今の私は違います。悠希くんと出会い、触れ合って、情というものを知りました」  今なら、お見合いの席から逃げ出し、愛する人と逃亡したあなたの気持ちも少しは解る。  そう、貴士は日明に語った。 「でも。悠希と婚約をした、という証拠は何もありません」  日明は、臆病になっていた。  疑心暗鬼に、陥っていた。 「二人で芝居をして、僕を竜造寺家に嫁がせようとしているのかも」 「お兄様」  日明の言葉が悲しい悠希だったが、貴士は頷き小さな箱を取り出した。

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