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第十一章・7
ベルベットの箱を開けると、そこには美しい指輪が現れた。
生活の邪魔にならない、控えめな小ぶりのダイヤモンドだが、その輝きは最高クラスのものだ。
滑らかなひねりの入った、プラチナのリング。
そこにも、ダイヤの粒がずらりと埋め込まれている。
「祖母の形見の指輪です」
貴士はそう言うと、悠希に向かってうなずいた。
「え? えと、あの……」
「これを、エンゲージリングとして。悠希、君に贈ろう」
「貴士さん。そんな大切なものを」
「君だからこそ、身に着けていて欲しいんだ」
貴士は悠希の薬指に、その指輪を通した。
幸せそうな、悠希。
慈愛に満ちた、貴士の表情。
日明の頑なな心は、その情景に溶けてほぐれた。
「お二人は、心から愛し合っておられるんですね」
「そうです。ご安心いただけましたか?」
悠希が、身を乗り出した。
「お兄様も、安村さんと愛し合っておられるでしょう? どうか一度、九曜に戻られませんか? そして、お父様とお母様に、結婚を認めていただきましょう」
「私も微力ながら、お手伝いいたします。お二人が、真の意味で幸せになれますよう」
「ありがとう、悠希。ありがとうございます、竜造寺さん」
ありがとう、と何度も何度も声を押し出しながら、日明は涙をこぼした。
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