83 / 90

第十二章・2

「でも、いいんですか? 貴士さん、会社お休みしちゃって」 「日明くんの式のために、悠希としばらく会えなかったからな」  式の準備で、九曜家の方へずっと帰っていた悠希だ。  久しぶりの貴士邸での彼は、ますます魅力的に見えた。 (だから貴士さん、昨夜はあんなに……)  激しい情事の名残が、まだ体内にくすぶっている心地だ。  半年ほど前、悠希は無事に発情期を迎えた。  体の変化も、ようやく落ち着いてきたところだ。  発情抑制剤を飲み、ピルを使っているので、妊娠の可能性は無いに等しい。  それでも貴士は、必ず悠希に確認した。 『悠希、ピルは飲んでいるか?』  その眼差しは、真剣そのものだ。  大学で学ぶ途中の悠希を、心から思いやっていた。  万が一、子どもができたら。 『僕、その時は休学して赤ちゃんを産みますよ?』 『いや、ダメだ。式もまだの君が孕むと、九曜の家が陰口を叩かれる』  竜造寺家と同じくらいに、いや、それ以上に九曜家を大切にしてくれる貴士に、悠希は深い信頼を覚えていた。

ともだちにシェアしよう!