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第十二章・3
「悠希。少し、そこの木陰に休もう」
「え? いいですけど」
満開の桜の木陰には、ベンチも何もない。
とまどう悠希をよそに、貴士はそこへ寝そべってしまった。
「貴士さん」
「こうやって、地面に寝るのは初めてだ」
「じゃあ、僕も」
悠希も、貴士の傍に腰を下ろした。
そして、彼の上にそっとかがんだ。
「悠希?」
「貴士さん……」
悠希の唇が、貴士に重なった。
土の匂い。
草の香り。
花の彩。
ヒバリの声。
そして、悠希の熱が貴士にもたらされた。
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