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第2話①
そこまで飲んでいないのに雰囲気に飲まれたのか頭がふわふわしてきた。
店内のライトアップが月のようで、その下で歩く美人はまさに天女だった。男だが。
「おまたせしました。500円のお戻しです」
満月のような輝きを放つ硬貨は俺の右手に授けられた。
手を引こうとすると美人が両手で優しく包みこんできた。
え!?
慌てる俺を他所に美人は更に握る力を強め
俺の耳元に囁いてきた。
「おにーさん、実は童貞割り目当てですよね?」
ドキッ 一拍大きく立てた脈拍は
メデューサに睨まれたかのように身体が硬直して、止まった。
思考は働き続けすっかり忘れていた愚かな願いが流れ星のように脳内を駆け巡る。
二周ほど駆け巡ると
電流が流れるような早さで血液が巡るのを感じた。再び心臓が激しく動き出す。
店内は涼しいはずなのに体の穴から汗が流れ出てくる。
「ふふっわかりやすいですね。じゃあ確認しましょうか?」
言葉が出ない震える脚で立ち上がる俺を優しく支えながら
美人は奥の扉へと誘い込んだ。
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