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第34話 C-02 西名×琉加 ⑤

 再会から4日後、彼女はこの赤阪院にいた。 聞けば働いていたクリニックを辞めて職探し中だった彼女に"うちで働かない?"と酔った勢いで僕が誘ってそうだ。  「ここが診察室でこっちがオペ室」  僕の後ろをついて歩く彼女に時々振り返りながら院内を案内して行く。 前の病院で7年働いていた彼女に特に心配事はないしちょうど患者の増加とベテラン看護師の休職もあって人手不足を感じていたところ。    「すごく綺麗で広いクリニックだね。まさか院長までやってるんて!さすがだね」  「まぁ院長が務まってるかはわからないけど、なんとかやってるよ」  「西名くんありがとう。なかなか希望にあう病院が見つからなくてずっと探してたから。ホントたまたま再会出来てラッキーだったな」  「こちらこそ。川窪さんなら大歓迎だよ。それじゃスタッフ紹介するね」  スタッフに合わせると感じのいい笑顔と話方で既に馴染んでいるようで安心した。思えば中学時代、彼女がこんな風に笑っている姿は見た事はない。大人になって美しくなった彼女だか少し違和感も感じていた。 美容整形を施す立場として気付かない訳はない。  「それじゃ川窪さんをお願い出来ますか?」  「わかりました」  看護師達にそう言って忙しい業務に戻っていく。彼女の16年間の空白の期間についてバーで何処まで聞いたかお酒のせいでよく覚えていない。名前が変わってないところを見るとまだ未婚のようだし、看護大学を卒業して美容クリニックで働いてた事くらいしか知らない。  まさか再会して数日後に同じ職場で働いているとは想定外だったけどきっといい"仲間"になれるはず。  始めは親の敷いたレールの上を歩くようにこの仕事に就いたが今では誰かを救える仕事として役に立ちたいと思うようになれた。 困ってる人は同級生であれ患者であれ純粋に助けたいと――   ◆◇◆◇◆  "空調機器メンテナンスの為13時より営業いたします。Desperado"  お店の前にバイクを止めてエンジン音が消える。ヘルメットを持ったままお店の入り口の張り紙を見ながら鍵を開けた。 厚手のジャケットを羽織ったまま店内の電気をつけてスタッフルームで業者が来るのを一人で待つ。  「もしもし紘巳さん?いまお店来ました」  「爽、悪いな任せて。開店には間に合う」  「それは大丈夫っすけど典登さん体調悪いんっすか?」  「普通の風邪だと思うけど看病してから行く」  「わかりました」  大抵二人のどちらかが店には必ずいる。開店前とは言え一人で留守番は初めてだ。それなりに任せても心配ないと判断してもらえたのかもしれないと少し嬉しかった爽。 「おはようございます。エアコンの修理に参りました」  「あっ、はい。どうぞ」  作業着に帽子を被った修理業者が扉を開けた。 勝手な想像でおじさんが来ると思いきや、あまり年の変わらない青年に驚いた。すらっと背の高い柔らかい雰囲気で茶色の髪が帽子から見える。 花屋か本屋なんかが似合う容姿だ。両手に抱えた重そうな荷物から名刺を取り出し差し出した。  「よろしくお願いします。まずは状態を見させていただきます。えっとー…このエアコンですか?」  「あーはいそうです」 売り場の真ん中にあるエアコンを二人で見上げる。  「数日前から突然動かなくなって」  「わかりました。じゃ作業取り掛かりますね」  そこから作業する事1時間半。邪魔したら悪いと始めはスタッフルームにいたが、途中から売り場に戻って作業の様子をじっと見ていた爽。 気になったのはエアコンの調子じゃなくて作業する彼の方。 手際よく作業を進めていく慣れた手つきで仕事歴がそこそこ長いんだろうなと分かる。  「よし!とりあえずこれで大体は直ったと思います。エアコンつけてみますね」 電源を入れると温かい空気が出て正常に動き出すとお互い顔を見合わせた。  「あっ、ただ内部の一部の部品が劣化してるなので交換が必要です。今はその部品がないので改めて交換だけ伺いますがいいですか?」  「あっ、はい」  「じゃここにサインをお願いします」  作業報告書にサインをすると帽子を外してペコっとお辞儀をした。綺麗な目がハッキリ見えて爽は吸い寄せられるように瞳に釘付けになった。 久しぶりに感じたこのもぞもぞした感じ――  「あのー…それと関係無い話なんですが、、表のバイクってあなたのですか?」  「はい俺のっすけど」  「あっ、、来た時に目に入ってちょっとテンション上がっちゃいました。あっ!僕もバイク好きでライダーなんです」  「えっそうなんっすか?」  見た目から想像つかない仕事して、しかもバイク乗りなんて驚きの連続。それでも同じ趣味に意気投合してしばらく店前で立ち話をした。  「あっそれじゃそろそろ、、またご連絡します。失礼します」  車で走り去った後も余韻に浸ってバイクを触る。顔が自然に緩んでポケットの名刺をもう一度見た。  「持田一成(もちだいっせい)……くん」  13時前。開店準備を終わらせたお店に出勤した紘巳が店内に入るなり暖かい店内で上を見る。  『おはよう。おっ、エアコン直ったみたいだな』  「はい、修理の人来て直りましたよ」  『……何かあったか?』  「はい!?なっ、何でっすか?」  じっと顔を見られ何か感じとった千里眼の紘巳に言われ焦る爽。きっと分かりやすく顔に出てたんだと顔を小さくパシッと叩いて表情を戻す。  「何もないっすよ!そっ、、それより典登さんの具合は?」  『熱はあるが高熱じゃない。ご飯食べさせて薬飲んで寝てるよ』  「あーそれなら良かったっす」  『ありがとな。んじゃ着替えたらオープンするぞ』  そして二人で一日の営業をお店を終えようとした時、扉が開いて最後の客がやってきた。  「いらっしゃいま……せ」  日曜日の閉店間際に一人で来た男性。高そうな黒のロングコートを纏って一目で普通の客じゃない事がわかった。    「あの、ここDesperadoであってますよね?」  『えぇそうですよ』  「メッセージ頂いて来ました。西名廉です」

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