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第36話 C-02 西名×琉加 ⑦

 翌日は朝からオペが3件続き看護師含め赤坂院はバタバタしていた。やっと一息つける時間になり院長室へ戻った。椅子に座りもたれかかって天井を仰ぐ。 鞄の中から彼のカルテを出して電話をかける。  「もしもし?琉加くん?西名です」  『えっ?西名先生……?先生から電話なんてどうしたんですか?』  「あーうん、ほら前に言ってた次の手術したいって言ってたあれの話し合い出来るかなって」  「はい。いいですけど」  「いつなら時間あるかな?出来れば早めだと有難いけど」  「明後日、、学校終わってからは空いてます」  「それじゃ学校まで車で迎えに行くよ」  「えっ、先生が?」  「病院じゃなく外で相談に乗るよ。それでもいいかな?」  「はい……わかりました。では明後日」  電話を切るとすぐに時間と場所を手帳に記す。 立ち上がってドアを開けると"わっ!"っと人影に驚いて声を上げてしまった。  「川窪さん!?」  「あっ、院長すいません。院長宛の郵便届けに来ました」  「ありがとう」  「あー…お昼まだですよね?私これから休憩なんで一緒に行きませんか?次の患者さんまで時間空いてますよね?」  「あ、、うん。いいよ」  彼女の誘いで病院を出て歩いて5分のハンバーガー店に着く。話題のお店の様で若い女性が席を埋めていて写真を撮っていた。  「今日は並ばず入れて良かったです。いつもお昼時は並んでるので」  「川窪、、もう敬語じゃなくていいよ」  彼女とは仕事の時は敬語、それ以外ではいつも通りで話している。仕事とプライベートの使い分けとまだ少しお互い知らない事も多くて他人行儀な部分があるからだ。  カウンターで二人分注文し財布を出すと阻止され"いくらですか?"と聞いて支払った彼女。  「就職先見つけてくれたお礼!安くて申し訳ないけどね」  「あっ、、ありがとう」    空いていた角の席に座る。向かい合わせに座って食べている彼女を見ていると中学時代を思い出した。そういえば一度隣の席になって、給食時間にこうやって机を向かい合わせて食べていた。 下を向いて目も合わせずただ黙って食べていた彼女は少食なのかよく残していた記憶があった。  「普段は食事どうしてるの?」  「えっ!?あーえっと、、適当にスーパーとかコンビニとかかな?あとは牛丼屋とか?」  「えー本当に!?」  「誰かに作って貰ったりしないの?」  「誰って?」  「……んー、その彼女とかさ」  「いないよ、彼女なんて!」  「えー絶対嘘!イケメンで優しくて頭良くて病院の院長がモテないわけないよ!」  「こんな嘘ついてどうすんの?本当にいないって」  「そうなんだ」  よくある"仕事に追われて恋愛する余裕がない"は女子には禁句だし実際のところ余裕はある。恋愛にがっつかない草食系男子を名乗れるのは正直30代前半までだし、この手の質問の答えに何と答えればいいのかいつも言葉に詰まる。  「川窪は?彼氏とか?」  「私はもしばらくいなくて。けど30過ぎたら逆に焦り無くなっちゃった!職業的にもそこそこ安定した収入もあるし。男無しでもやっていけちゃうってのが逆にダメなのかな?」    笑いながら話す彼女につられて笑ってしまった。あの時は何故こんな風に笑いながら給食を食べていなかったんだろうか。 14歳の彼女と31歳の彼女が一致する部分が見つからない。  「あっそれと……もう気づいてると思うから言っちゃうけど私も整形してるよ。目と唇と輪郭分かる?」  「何いきなり!?」  「西名くん専門家だからすぐわかるよね」  「いや、だって16年振りだよ。そんなすぐ分からないよ!元をそんなに知らないしさ」    ピタッと食べる手を止めた彼女。口の中を空っぽにした彼女がゴクリと飲み物を飲んだ。一瞬少し悲しそうな表情をした気がした。  「まぁそうだよね。あの頃は少ししか話もしてなかったしそんなに覚えてないよね。女は化粧でも変わるから」  「あっ、だけど凄く綺麗になったよね」  「……ありがとう。あっこれ食べてみて!言ってたオススメのポテト美味しいから!」  少し不穏な空気が流れたけどすぐにいつもの明るい振る舞いの彼女に戻った。何かまずい事でも言ってしまったかもと考えるがわからない。    きっとまだ独身でいる理由は女心を理解出来てないのが一番の要因だろう。"院長"なんて立派な肩書きを持っただけのただの子どもなんだ僕は――  二人でクリニックに戻って院長室と更衣室それぞれに分かれて、また上司の部下の関係に戻る。その姿を看護師達が目で追っていた。  「ねぇ、院長と川窪さんって何かあるのかな?」  「えっ!?何かって?」  「二人で一緒にお昼食べに行ってたみたいだけどちょっとあやしくない?だって普段お昼はほとんど食べない院長が外食なんて」  「そう言われば……二人は中学の同級生って聞いたけど昔何かあった、、とか?」  「えー!ちょっと聞いてみてよ」  「何で私が!?無理無理っ」    患者が続々と入ってくる。看護師達も口の動きを止め業務に戻った。医師と看護師の噂なんて病院内ではよくある事だとそれ以上騒ぎ立てる事は無かった。  問題は看護師ではなく医師と患者との――

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