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第39話 C-02 西名×琉加 ⑩

 「琉加くん、どうしたの?」  「あっ、、いや!なかなかこんな別荘に来る事ないしすぐ帰っちゃうの勿体ないなって…」  少し顔を赤らめ彼は目線を外して慌てた様に言った。  「でも迷惑ですよね!明日仕事だろうし、、すいません忘れて下さい」  「僕は構わないけど。明日は休みだし……琉加くんこそ学校は?」  「午後からなので……朝帰れば間に合います」  「そう。まぁ、、雨降ってるしね」  静寂を破る様に窓に当たる雨音が強くなっていく。オイルの効き目は見ただけではわからない。強く香っていた匂いももう消えている。  冷蔵庫はほとんど空に近く何故かインスタント麺の袋が二つだけあった。確か数ヶ月前に一つ自分で食べたんだっけ。  「ありがとうございます。美味しそう」  数万円しそうな高級な器に入ったインスタントラーメンには具も何もない。そんな滑稽な状況に何だかとても幸せを感じたんだ。  「何が面白いの?」  「なんかこんなに広いお洒落な家でインスタント麺(すす)ってるのが面白くて」    くしゃっと笑う顔は初めてみた。スープ最後の一滴まで飲み干すと箸を置いて手を合わせた彼。    「ご馳走様でした」  「こんなのしかなくてごめんね」  「冗談じゃなく本当に美味しかったです!」 屈託のない彼の表情と言葉に何だかとても照れ臭くなって視線を外した。  「うーん……それじゃどうしよっか」  「そうですね、、あっ先生の話聞きたいです!」  「えっ?僕の話って!?」  「どんな子ども時代だったかとか……ほら!やっぱり有名病院の先生だし僕みたいな一般人とは違う人生歩んでるから聞きたいです!」  「僕の人生の話なんて大した事ないしつまんないよ」    ラーメンの器を重ねてキッチンに運ぼうと立ち上がると彼にガシッと腕を掴まれてスープがポタリと床に落ちた。  「知りたいんです!先生の事……もっと」 上目遣いで少し潤んだような瞳を向けられるとぐらっと器を落とそうになって慌てて大勢を立て直した。  「わかった、、とりあえずこれ片付けたらね」  結局彼からの質問攻めに答えながらこの31年間を答えていく。改めて振り返る自身の人生はなんて何の面白味もなくて単純でつまらないのだろうか。 それでも彼は興味津々で頷きながら聞いていた。  「へぇ〜お兄さんは23歳で結婚を?」  「うん。翌年には子どもも生まれてさ、僕も21歳で叔父さんになったよ」  「ハハッ。あっ!お兄さんは銀座院の院長ですよね?」  「知ってるの?」  「はい、病院を決める時にホームページで見ました。あとテレビでも観ました」    時々メディアにも出る兄は今や医者タレントみたく扱われSNSのフォロワーも一般人にしては多くそこそこ知られていて会いたいが為に病院を訪れる人もいる。 僕はそうゆうところも兄とは考え方が正反対だ。  「それで先生はー……結婚、、しないんですか?」  「残念ながら相手もいないよ」  「……そうなんですか」  涼しい顔して言えるのも別に結婚に焦ってはいないから。確かにモテる人生だと言われれば否定はしないが長く一途に誰かを好きになった事なんてないのかもしれない。  「僕の話は終わり!さっ次は琉加くんの番ね」  「えっ!?僕なんて話す事無い……」  「いいから!いいから!」  彼は思い出しながら22年間を振り返るように話し始める。彼は中学生の時に容姿を揶揄(からか)われ人前に出る自信をなくして不登校がちになった事、テストでいい点取ろうがスポーツで表彰されようが結局チヤホヤされるのはいつも見た目がいい人だと高校生で身を持って感じた事。  そして大学生になり美容整形に出会った事など時折言葉を詰まらせながら話してくれた。  「すいません。なんか暗い話ばかりで、、、」  「ううん。話してくれてありがとう」  気付けば雨は霧雨に変わり時間がいつの間にか過ぎていた。  「あっ、こんな時間だしお風呂入って寝よっか。僕のでよければこれ着て寝て」  予備で置いていたスエットを渡してお風呂場まで案内する。だだっ広いお風呂場からも外の海が見渡せる大きな窓。いちいち部屋が変わるたびリアクションする彼がとても可愛らしい。  「タオルはそこにあるから」  「ありがとうございます。じゃ借りますね」    彼がお風呂に入っている間、廊下の隅っこに置いてい瓶を手に取った。瓶から香りは完全に消えていて魔法のオイルの面影はなくなっていた。  彼が僕を好きになるこの7日間で何とか手術を辞めさせる説得が出来るのか。  自分には恋愛は向いていないと本気の恋はしないままこの歳になったけれど今まさに誰かの為に初めて行動を起こしているかもしれない。  説得する為のオイルのはずなのに僕は本気で彼を――

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