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第40話 C-02 西名×琉加 ⑪

 それからパソコンを開いてカタカタとキーボードを鳴らしていたが、一向に出てくる気配のない彼が心配になり浴室へ向った。扉の外から音を確認するがシャワーの音はしないし静かなもんだ。  「琉加くん?まだ入ってる?」  ドンドンと扉を叩いても声をかけても返答はない。もしかしてもう出てこの広い家のどこかで迷ってたりするかもと一階二階まで全ての部屋を覗いてみるが姿が見えない。再び浴室に戻って声をかける。  「琉加くんいる??……開けるよ!?」  「、、ハァ、、ハァ」  微かに息遣いが聞こえて扉を勢いよく開けた。目の前に脱衣所の壁に(もた)れてぐったりと倒れ込んだ彼の姿があった。急いで彼に近くと荒い呼吸と熱い身体、腕を触るとドクドクと早く脈が打っていた。  「琉加くん!大丈夫!?聞こえる?」  意識は(わず)かにあるが朦朧(もうろう)としている。一目で体温上昇による強い脱水症状だとわかった。 すぐに冷蔵庫から冷えた水と身体を冷やす物を持っていき彼の身体に当てる。 ペットボトルを彼の口を開けて水を飲まそうとするが身体の力は抜けていて全部溢れてしまう。  「琉加くん、水少しでも飲まないと!」  その言葉に少し反応した彼の腕が僕の服を掴んでゆっくり目を開けた。小動物の様にか弱く何かを訴えるような目。  咄嗟に僕は水をいっぱい口に含むと彼の唇に当てた。口移しで彼の口内へ水を流し込む。水の冷たさを感じないほど熱くなった彼の身体。二回、三回と繰り返して彼の様子を伺うと荒い呼吸は次第に落ち着いて正常に戻った。  「……せ…ん、せい?」  「あっ琉加くん。もう大丈夫だからね」  「み、、ず……ください」  「えっ!水?あっ、うん」  彼の口にペットボトルをあてがうと首を振って拒む。彼の手が僕の頬にゆっくり触れてそのまま唇にゆっくり移動する。  「……口移しでって、、事?」  さっきは咄嗟に何も考えず行動してしまったが意識がある彼に懇願(こんがん)されるとやはり躊躇(ちゅうちょ)してまう。  「、、お願いします」  口に含んだ水を彼に移すとゴクリと音を立てて飲み込む音が聞こえた。唇を離そうとすると頭の後ろに両手で固定され彼の舌が口内に入ってくる。  「……んッ、、」  驚きと同時になんとも言えない快感が襲ってくる。まだキスに不慣れな彼の一生懸命さを感じながらゆっくりと互いの舌を絡めていく。 このままだと理性を失って良からぬ事をしでかしてしまいそうだと、パッと唇を離すとまだ赤い顔してふわふわした顔の彼の目を見つめる。  「あー…とりあえず、、服着よっか」  「えっ!?」  「る、、琉加くんが出たら僕入るから!」  少し冷静になってきたころ彼の素っ裸の状態に気づいて背中を向け、浴室の扉をバタンっと音を立てて出た。 別に男の体を見た所でこんなに慌てる必要はないのだけど恥ずかしさとはまた違う感覚に耐えられず出てしまった。  数分後、少しオーバーサイズなスエットの袖を捲りながら着て浴室から出てくる。まだ少し足が覚束(おぼつか)ない彼に近寄った。  「横になってた方がいいよ。ベッドルーム案内する」  「いえっ、もう大丈夫だしまだ眠くありません!」  「あんなに派手に倒れといてよく言うよ、本気で心配したんだからね。ほらっ!医者のゆうこと聞いて付いてきて」  階段を上がって2階の寝室へ。寝室だけでも三部屋ありどこでも選び放題だ。中でも一番広い部屋に彼を案内して用意した歯ブラシや必要な物を渡す。  「わっ、広いベッド!」  「まぁキングサイズだからね。部屋寒ければそのリモコンで調整してね。あとはー…必要な物あるかな?」  「大丈夫です。あのー…先生は何処で寝るんですか?」  「僕は向かいの寝室にいるから。少しならなきゃいけない仕事あるし」  「ここに来てもまだ仕事ですか?、、、院長先生って大変なんですね」  「今日中に終わらせないと明日朝早くに病院行くハメになっちゃうからね」  「、、、それは困ります」  素直に布団に入るとキングサイズの端っこで天井を見つめた彼。部屋のライトは暖色の小さな明かり一つに変えて彼のおでこや首に触れた。  「体温は正常に戻ったようだね」  「騒がせてごめんなさい」  「だけど何であんなに倒れるまで浴室から出てこなかったの?」  「……先生と二人きりで一夜過ごすと思うと……緊張、、してきて、、出られなくなったんです……」  予想外の返答だったがこれもオイルの効果の一つなんだろう。結局僕のせいで彼をこんな状態にしてしまったと罪悪感に駆られてしまった。  「琉加くんが眠るまでここに居るから安心してて。あーそれとも居ない方がいいかな?」  「……居て欲しいです」  僕の手をギュッと握って何かを訴えるような目の彼に逆らえる訳もない。  「わかったよ。ここに居る」  彼は安心した顔でそっと目を(つぶ)った。握った手から感じたのは、顔を変えるより心を変えてしまう事の方がずっと罪深いと言う事だ。

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